【成功する沖縄移住】スープカレーを黒糖カレーにアレンジして4店舗
スープカレーといえば北海道が本場。移住とともにそれを沖縄に持ち込み、4店舗を展開する人がいる。移住といえば転職とセットというイメージもあるが、起業という選択肢もある。その成功例を紹介しよう。
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スープカレーで成功しつつも東日本大震災で沖縄へ
「あじとや」は沖縄黒糖カレーと銘打ち、沖縄県内に4店舗、さらに埼玉と台湾にも進出しているチェーン店である。
黒糖カレーは沖縄伝統のカレー、ではない。北海道が起源とされるスープカレーと、沖縄産の黒糖などを組み合わせた斬新でユニークな料理である。
このカレーを生み出したのが、あじとやでCEOおよびシェフを務めるHさんである。北海道生まれのHさんは、もともと札幌でスープカレーの店をやっていた。
繁盛していたのだが、ある著名人がその味に惚れたことから転機が訪れる。
その人は、投手としてプロ野球界で活躍した人で、「スープカレーの店をやりたい」という頼みに応じてHさんは拠点を仙台に移し、スープカレー屋3店舗をプロデュースしてここも成功させた。
しかし、5年ほど経ってまた転機が訪れる。2011年の東日本大震災だ。それをきっかけに翌年、家族を連れて沖縄に移住した。
カレーに黒糖を入れてみたらドンピシャ
移住後、Hさんはすぐにカレーの店を始める。事前に目をつけていた元居酒屋を居抜きで借りて開店という早技だった。
北海道でも地元の野菜をたくさん使ったカレーを出しており、地産地消は強く意識していた。沖縄でも地元食材を使おうと思っていたという。
そこで取り入れたのが沖縄特産の黒糖である。もともとカレーには砂糖を使うこともあり、それを黒糖にしてみたらコクが出た。「ドンピシャだった」とHさんはいう。
というわけで北海道生まれのスープカレーと沖縄産の黒糖がうまくマッチして黒糖カレーが誕生したのである。
だが、2年くらいは自転車操業だったとHさんはいう。店は最初からうまくいったわけではなかった。
知り合いもいない土地にいきなりやって来て、北海道のスープカレーと沖縄の黒糖のコラボといっても、そう簡単には受け入れられなかったのだ。
運命のような出逢いからカレーベンチャー立ち上げへ
一方もうひとり、客としてあじとやに通う移住者がいた。Iさんという。
もともとITが専門で、独立してベンチャー企業を立ち上げようと考えていた。
しかし、沖縄のIT企業200社以上の社長を知っており、自分がIT企業を立ち上げると、彼らのライバルになってしまう。だからそれ以外のジャンルにしたいと思っていた。
そこで考えついたのがまったく畑違いの「食」である。だが、料理はまったくできない。「ならば最高のシェフと組めばいい!」
そのシェフとして目を付けたのが、行きつけのカレー店のオーナーシェフであるHさんだった。
Iさんとしては、日本のラーメンが世界へ羽ばたいたように、日本のカレーは世界から必ず注目を浴びると見ていた。
その証拠に東京のカレー店がミシュランガイドに掲載されるようになったではないか。
つまり日本のカレーのおいしさに、アジア人のみならず欧米人までもが気づきはじめた証拠である。
だから、ラーメンの次に来る新しい日本食のトレンドはカレーだ。しかも、世界を相手にするなら始めるのは日本のどこだろうと関係ない。
沖縄のような地方から出ても世界一になれるだろう。その沖縄で一番おいしいカレーを作るHさんと組めば世界展開できるはずだ。
しかもHさんは従業員を育てるのもうまい。人材育成もできる人だ。そこで声をかけた。
そしてふたりでカレーベンチャー「株式会社あじとや」を立ち上げたのである。
「早く神保町に来て」といわれつつ台湾に出店
その後、店舗が増えるにつれて黒糖カレーの味わいも徐々に知られるようになってきた。2019年には那覇カレーグランプリで優勝を果たすほどになる。
そして東京のファンからは「早く神保町に来て」とまでいわれるようになった。
東京の神保町は古本屋の街として知られるが、一方で東京一、もしくは日本一かもしれないほどカレー激戦区としても有名だ。ミシュランガイドにも神保町のカレー店が掲載されたりしている。
あじとやも、日本を代表するカレーの名店が軒を連ねる街に出店して勝負できるというのである。
しかし、神保町の前に台湾への出店が現実のものとなった。あじとやに来てカレーを食べ、その味に感動した台湾の人が現地の責任者となって出店するというのである。
その現地責任者には実際にあじとやで研修を受けてもらったという。
あじとやが琉球大学とコラボして作ったレトルトカレーも発売した。Hさんがレシピを担当し、琉球大学が同大初のブランド商品として開発したものである。
「沖縄のカレーといえば黒糖カレー。沖縄に行って黒糖カレー食べたい、いや日本に行ったら黒糖カレーが食べたい、といわれるようになりたい」と話してくれた。
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吉田 直人 よしだ なおひと
沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。
著作の紹介
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