2022/11/08

「汁物」で乗りきろう、沖縄の寒~い冬①

早いもので2022年も11月に入ってきて、クリスマス商戦も始まっている。勘違いする人も多いようだが、沖縄はハワイのような常夏の地ではない。ちゃんと冬があるのだ。だから寒い。常夏などと勘違いしていたらカゼをひいたり、こじらせて肺炎になったりしかねないのだ。では、寒い冬を乗りきるにはどうすればいいのか。厚着をする、暖房を使う、抱き合って温め合うなどいろいろあるだろうが、そのひとつとしておすすめしたいのが汁物。追求していくと沖縄の汁物はきわめてスグレモノであることがわかるのだ。そこで、冬におすすめしたい汁物やその効用などについて、シリーズで紹介してみよう。

 

豚、ヤギ、ウミヘビまでバリエーション豊富な汁物

ウチナーンチュは汁フェチである。和食では鍋文化が発達している代わりに汁物のバリエーションが少ないが、沖縄は暖かいせいか鍋文化がないので、そのぶん汁物がたくさんある。
ソーキ(豚のあばら肉)汁、テビチ(豚足)汁、イナムルチ(豚肉、かまぼこ、しいたけ)、アーサ(あおさ)汁、汁、アバサー(ハリセンボン)汁、中味(豚の腸)汁、チムシンジ(豚のレバー)、ナーベラー汁、ヤギ汁、汁、イカスミ汁、アヒル汁などなど。
一瞬でこれだけの種類が思い浮かべられるほどだ。
陸では、よもぎから豚の足まで、海ではハリセンボンからエラブウミヘビまで、あらゆる沖縄食材が汁の具材になる
ちなみに、エラブウミヘビというのは猛毒のウミヘビだ。これを使ったイラブー汁というのがある。おいしくて滋養強壮にもいいといわれるが、値段がけっこう高いので、庶民がふだん口にするようなものではない。
あらゆる食材が汁物の具材になると書いたが、沖縄の代表的な野菜であるゴーヤーは、ふつう汁の具にはしない。あの苦みが汁ににじみ出たらちょっときついかもしれない。

具材のうまみが渾然一体となる

なぜこれほど汁物が好きなのか。それは簡単、おいしいからである。かつおや昆布のダシに、豚肉、魚介、野菜、鶏、海藻、豆腐などを放りこみ、ぐつぐつ煮込む。素材の味がしみだし、それが渾然一体となったら、おいしいに決まっている。

点滴にも使いたいくらい

また、汁物は薬という考え方もある。肉や野菜、魚介のエキスが詰まった汁をぐぐっと飲み干せば、栄養満点で体にいいに決まっている。だからオバァたちは、体調を崩したときは汁物を食べなさいという。つまり医食同源なのである。育ち盛りのお子さまから病人、お年寄り、二日酔いに苦しむお父さんまで、たくさんの人を支えているのだ。

冷え切った夫婦仲がよみがえり、寿命も延びる

もちろん汁物は人の体と心を温めてくれる。暖かいといわれる沖縄だが、冬場はけっこう寒くて、ストーブを使いたくなる日もある。そういうときの汁物はありがたい。正月にも、お雑煮の代わりにソーキ汁を食べることが多い。ひと口すすれば、仲が冷えきった夫婦にも、また愛がよみがえるかもしれない。カゼをひくだけで命にかかわりかねないお年寄りだって、寿命が延びるかもしれないのだ。

沖縄汁物概観

 

これはイナムルチという伝統料理。豚肉とかまぼこ、しいたけなどを具に甘めの味噌で味付けする。

中味汁はモツのうまみがたっぷり出て、しいたけのうまみと混じり合い、上品なおいしさ。

ソーキを煮込んだソーキ汁。骨のダシが出て野菜のダシと溶けあい、なんともいえないうまさをかもし出す。

ヤギ汁は匂いはきついが、肉にダシがあって柔らかく、豊かな味わい。フーチバーとしょうがを添えて。

白身魚をちょっと煮込んだ魚汁。島豆腐を入れ、味噌で味付けする。沖縄の海の風味が口の中に広がる。

エラブウミヘビというのはこういう生き物。猛毒だがおとなしいので、海人は手づかみで捕まえる。

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吉田 直人 よしだ なおひと

沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。

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