「汁物」で乗りきろう、沖縄の寒~い冬③
沖縄の汁物が日本の鍋料理と同等、もしくはそれ以上にスグレモノであることをお伝えしているシリーズ。どんどん行こう。3回目は、汁物の原点中の原点であるみそ汁、豚の肋骨ソーキ汁、そして牛汁だ。ちなみに写真はすべて定食である。
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作り手の人生の味さえ感じる未確認食堂物体
昔はごくふつうあった話。
「なんにする?」。食堂のオバァに聞かれて、「んーと、みそ汁ね」と答える。しばらくしてオバァがみそ汁とごはんを運んでくる。
そのときはっきりと見た。テーブルに置くとき、彼女が湯気の立つ液体の中に親指つっこんでいるのを。「オ、オバァ、指入れんけぇ」「はぁ? なんでぇー、ダシが出るからいいさー」
抵抗をあきらめて、黙ってみそ汁をすする。うまいのは間違いない。まず具が豊富だ。豚肉、島豆腐、かまぼこ、野菜、お約束の卵も入っている。
島みその香り、カツオだしの風味、多彩な具のうま味。それらが渾然一体となって、やさしくてコクのあるおいしさを生み出している。
米軍統治時代から、もしかしたらその前からの波乱の時代を生き抜いてきたオバァの人生の味が、指を伝わってしみ出ているようだ。
というわけで、ナイチャーが沖縄に来て、まず仰天する未確認食堂物体の代表がみそ汁だろう。つまり沖縄の食堂において、みそ汁はおかずなのだ。
それを中心としてごはんや漬け物がつき、定食を形成する。当然、「みそ汁にごはん」と頼めば、ごはんがふたつ出てくる。もちろんオバァの指はサービスだ。
ちなみに、もうひとつの未確認食堂物体が「おかず」。こいつの正体は野菜炒め定食だ。だから「おかずにごはんにみそ汁」と頼むと、野菜炒め、大きなみそ汁、小さなみそ汁、そしてごはんが三っつ出てくる。
さらに意味不明なのがチャンポン。野菜炒めを卵でとじてごはんにのせた物体だが、それとみそ汁を頼むと・・・あがい、もうわからん。
ふがいない男にはおいしいソーキ汁を食べさせよう
ソーキ汁は、豚の骨付きあばら肉をカツオや昆布のダシで煮込んだ汁である。骨からもいいダシが出て、それがシブイ(冬瓜=とうがん)や大根にしみこみ、ヤバイくらいうまい。おでんに代わる存在ともいえる。胃にやさしく、二日酔いの日の昼食にもいい。
余った汁を冷蔵庫に入れておき、翌日、温めてごはんにぶっかけると、絶品のおじやになる。その際、ドロドロのシブイが少し残っているとなおよい。
ソーキ汁は、沖縄以外ではあまり食べられていないようだが、もったいない話だ。近ごろはレトルトも出ているので、観光のお土産にいいかもしれない。
ただし、手作りの味にはかなわないので念のため。ちなみにオバァたちは「ソーキブニのおつゆ」呼ぶ。ブニは骨の意味で、つまりろっ骨である。
ソーキ汁とソーキブニのおつゆは同じものなのに、味のニュアンスに違いがある気がしてしかたがない。
聖書によると、アダムの肋骨からイヴが作られたそうだが、似たような昔話が沖縄にもある。男はソーキブニが1本足りなくて、その分、女より愚かだというのだ。
酔っぱらい運転のタクシードライバー、客の金に手をつける銀行員、バクチばかりやっている警察官、女性の前で下半身を露出させる公務員、中学生に金を払ってHする教師などが島にハンランしているが、こいつらのX線検査をやれば肋骨が2、3本足りないのがわかるはずだ。
かわりに、ソーキ汁の食べ残しの骨でも埋め込んでやれば、少しはまともになるだろうか。
牛汁は野生と官能と変換ミスを秘めた、おどろきの味
パソコンで「ぎゅうじる」を変換すると、「牛耳る」と出てイラつく。日本に「牛汁」という文化は存在しないのだろうか。
もしそうなら、牛汁も沖縄独自の郷土料理ということになる。人間より牛の方がはるかに多いという八重山の黒島では、牛祭りの際に2000人分の牛汁が作られ、ふるまわれるという。
牛汁は、牛肉、胃袋、大根、にんじん、昆布などをかつおダシで軽く煮たものである。だが、豚汁の豚のかわりに牛肉を入れればいいんだろ、みたいなノリで、素人がいいかげんに作るとヤバイものができあがる。
牛のケモノ臭さが前面に出てくるのだ。この臭みをいかに消すかがプロのテクニックなのだろう。だから、ヤバイ臭いがうまく消された牛汁は、上品で繊細なのに濃厚でコクがあって、トンデモなくうまい。
この味を知らない日本人はかわいそうだと思うほどだ。やさしくてほっこりした豚汁とはまったく違う、インパクトとパワーと官能性を秘めた一杯である。
石垣島ではブランド牛の石垣牛を使った牛汁が食べられるというが、これはぜひ行って食べてみなくてはなるまい。それに八重山そばをぶちこんだ牛そばもあるそうで、それも死ぬ前に一度はすすってみたい。
しかし、牛汁はランチにはちょっとお高めなので、吉野家あたりが半額で出したら日本中でブレークするに違いない。「牛汁大盛り、つゆだくで」とオーダーする勘違いさんも出現するだろう。
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吉田 直人 よしだ なおひと
沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。
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