2022/11/30

助け合いから詐欺まで使える伝統の金融システム「もあい」

沖縄には銀行などの金融機関がいっさいからまない民間金融システムがある。それが「もあい」で、昔ほどではないにせよ、現在でも一定の役割を果たしている。今回は、中高生もやるというもあいの紹介を。

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全員が出したお金を順番で取っていく

土曜日の夕方、居酒屋の座敷に10人ほどの女性が集まっている。年齢は、20代から50代までバラバラで、服装も主婦から、OL風、ゴルフ帰り風、お水風とさまざま。まわりでは子どもも走りまわる。

「そろそろ、やるねぇ?」
「もう、やるわけ? 早いよぉ」
「でもさ、ウシちゃん今から出勤ってよ」
「あーそーね、じゃ、やろか」

彼女たちはそれぞれサイフから万札を2枚出し、テーブルの上に置く。1万円札の山ができる。

で、だれが取る?
「はい、わたし」
「え~、サダ、あんた先月取ったでしょ」
「あれ、そうだった?」
「だったさ~、これでたまった家賃3ヵ月分払えるって、喜んでたさ~」
「あ、だったね~、忘れてたさ~」
「じゃ、あたしが取る」
「ナラン、あたし」
「アイ~、カマダーとカメねぇ、2人いるわけ?、困ったねぇ、どうしよう」
「あたし、先週の台風でクルマが水没してからよ~、買い替えんと通勤もできんってば」
「うち、来週あたりオバァがいきそうでさ~、葬式代ないわけよ」
「あいや~、葬式が優先かねぇ、カマダーにはうちの余ってるクルマ貸すからよ、今月はカメが取りなさい」

たとえば以上のような会話が交わされて、テーブルの上の20万円はカメが持っていくことになる。これがもあいである。

別に女子だけというわけではなく、男子もやる。ただ、どちらかというと家計を預かる女子が参加する印象が強い。

 

親睦目的から事業資金調達まで

もあいは漢字で模合と書く。メンバーが毎月一定額を出し、それを順番に取っていくもの。上の例では、1人2万円、メンバーが10人なので、20万円(実質的には18万円だが)集まり、それを話し合いで順番に受け取っていくのである。

琉球王朝時代に、相互扶助を目的に士族の間で始まったもので、一種の金融システムだ。本土では頼母子講とか、無尽講などという。1回5000円から1万円、2万円程度が多いのだが、事業資金や家の建築資金などを目的とした100万円単位のもあいもある。

銀行より利息は安いし、めんどくさい審査もない。もあいさえ立ち上げればまとまった金が手軽に調達できるので、非常に便利である。

問題は、はじめに受け取った人間が支払い不能に陥ったり、行方をくらましたりすることだ。そうなったら大ごとである。大ごとをウチナー口ではデージといい、これはもうイチデージ、つまり一大事だ。

もともと信頼関係で成り立っているシステムなので、途中で逃げるやつがいると、もうどうにもならない。

親と呼ばれる幹事が責任を取ることもあるが、それにも限度がある。下手したら連鎖的自己破産しかねないから大騒ぎになるのである。

 

飲み会の口実や旅行の積み立てにも

なので、今どきは1、2万円のもあいが多い。これは、要するに飲むための口実だったりする。また、旅行の積み立て目的もよく見られる。
積み立てなら銀行や郵便局でやればいいと思うのだが、それをやらずに月に1回仲間で集まろうとするのがウチナーンチュのメンタリティなのである。

もあいが盛んだった昔は、メンバーが共同で資金を出して墓を造ることさえあった。この「もあい墓」には、もちろんメンバーが入る。
あの世でも同じ顔ぶれでもあいをしようというのだろう。さらに、お金の出入を記録する「もあい帳」が普通に売られているのも沖縄ならではである。

コロナ禍で、もあいも壊滅的な打撃を受けた。飲み会はオンライン、お金は銀行振込にしてなんとか生き残りを図るグループも。

 

メリットは大きいが中高生はやめて

アナクロニズムな金融システムのようだが、金融以外の面でも有効に機能している。
たとえば、もあいで知り合って結婚した、もあい仲間に仕事を紹介してもらった、売れ残っているマンションを買ってもらった、土地をもらった、ありがたい宗教に出会ったなど、人的なつながりが生むメリットは大きいのである。

ところが、中学生や高校生が、もあいと称して宴会を開くのは困りものである。出すのがお金に限らずゲームソフトだったりエッチなDVDだったりするのはかわいいが、元は助け合いの金融システムだとわかっているのだろうか。
大人のマネをして、もあいを口実に飲んだくれているだけのように思える。

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吉田 直人 よしだ なおひと

沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。

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