伝統の「島豆腐」とその危機について
つややかでほんのり白くてあたたかい、お母さんの肌のような島豆腐。マザコンでなくても大好きだ。今回はいつ食べてもおいしい島豆腐と、それが瀕している危機についてお話ししたい。
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これだけでも酒のつまみになる畑と海の恵み
沖縄の豆腐を島豆腐という。木綿豆腐の一種である。
だが、わざわざ「島」がつく以上、本土の豆腐とは少し違う。まず固い。水切りしなくても崩れにくいので、チャンプルー料理にはピッタリ。また、持ってみるとずっしりと重い。
固くて重いのは、畑の肉といわれる大豆がたくさん使われているからだ。しかも一丁がやたら大きくて食べごたえがある。冷や奴にしたら8人から10人分ぐらいありそうだ。
一丁300円として1人あたり30~40円ほどの計算になる。これだけで十分泡盛やビールのつまみになる。
生搾り製法で独特の風味や栄養
そもそも作り方がだいぶ違う。本土の豆腐が煮た大豆を搾るのに対し、島豆腐は生の大豆を搾る、いわば「生搾り」製法だ。厳密には、大豆を挽いて水に浸けた生呉汁という半液体を、本土の場合は煮てからこすのに対し、島豆腐の場合は生の状態でこしてから煮るのである。生で搾るので大豆の栄養分や風味が生きる。
豆乳を固めるのに島の海水を使うのも特徴だ。そのため、口の中に大豆のおいしさとかすかな海の風味が広がって、沖縄の豊かな自然を食べているという実感がある。
島豆腐は温かいまま売られている
それと、スーパーなどで初めて島豆腐に触れると、ちょっと驚くかもしれない。あたたかいのだ。店頭に出た直後だと熱いと感じるかもしれない。
食品衛生法では、豆腐は冷やして売ることになっているらしいが、島豆腐は例外で、冷やさず、できたてのホカホカを売るのが基本である。
買う方も「豆腐はアチコーコー(熱々)がおいしいさーね」といいつつ、配達時間を頭に入れた上でスーパーへ走るのである。
今そこにある島豆腐の危機
ところが今、島豆腐が存続の危機にある。
2021年に、島豆腐の世界でも「HACCP(ハサップ)」と呼ばれる衛生管理基準に沿って管理することが義務化された。
具体的には温度55度以上で販売しなくてはならなくなった。55度以下になると3時間以内に冷蔵するか食べなさいというわけだ。
すると島豆腐屋はどうなるか。まず、スーパー等への納品寺に商品の温度が55度以上になっていないと、納品を拒否される。
工場と納品先に距離があるなどの事情で55度を下まわると、泣く泣く持ち帰らなくてはならないのだ。
さらに店頭では3時間以内に売り切らなくてはならず、それ以上経った島豆腐は廃棄処分されてしまう。
これらは島豆腐屋にとって死活問題だ。実際に廃業を検討しているところもあると聞く。
この基準が適用されるようになって、スーパーの店頭から島豆腐が姿を消した時期もあった。
伝統の島豆腐が危機を迎えており、島豆腐ファンも今までのようには気軽に食べられないかもしれない危機を迎えている。
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吉田 直人 よしだ なおひと
沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。
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