商売としての「沖縄そば」考②
沖縄県民が大好きな沖縄そばを、商売の観点から考えるシリーズ。今回はソーキそばを取り上げる。
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誕生から半世紀近くを経て今や盤石の地位
ソーキとは豚の骨付きあばら肉のこと。豚のスペアリブである。それをしょう油、泡盛、黒糖などで煮付け、沖縄そばの上にのっけたのがソーキそばだ。
ちなみに、人間のろっ骨に対してはソーキといわない。医者に行って「ソーキが痛い」と訴えたら、「精神科に行け」といわれるだろう。
ソーキそばは、沖縄そばの1バリエーションであるが、その歴史は比較的浅い。1975年ごろの発明といわれるから、まだ半世紀に満たない。沖縄が日本に復帰してから生まれたわけである。
名護の2店舗がボロもうけしたらしい
産声を上げたのは名護市。元祖は、我部祖河(がぶそか)食堂と丸隆(まるたか)そばの二説がある。
我部祖河食堂は沖縄中にチェーン店を展開するようになったし、丸隆そばは昔はプレハブだったが、その後、広い土地にビルを建てた。どちらもソーキそばで大もうけしたと思われる。
それからソーキそばが燎原の火のごとく広がり、沖縄中の既存のそば屋や新規のそば屋がこぞってソーキそばを提供するようになったのだ。そこについては、我部祖河食堂と丸隆そばが、この業界において果たした功績はきわめて大きい。
もちろん経済的な面だけでなく、食文化の観点からも、沖縄そばの世界に画期的な新メニューをもたらしたわけだから、国民栄誉賞とまではいかなくても、県民栄誉賞くらいはあげてもよいのではないか。
そういえば、同じ名護市の老舗、宮里そばにはカレーライスはあるがソーキそばはない。これは名店の意地なのだろうか。
カンガルー疑惑も乗り越えて
一時、マクドのハンバーガーにはカピバラの肉が使われているという都市伝説が巷に流れたことがあった。それと同じノリで、20年くらい前、〇✕そばのソーキはカンガルーの肉という話が、まことしやかに広がった。
そして、実際その店に行ったとき、いっしょにいた知人が店員に「ここのソーキはカンガルーの肉って、本当?」と聞いたのだった。
そのあまりに直球な質問に、筆者は口に入れたそばが鼻から出るほど驚いたのだが、店員の返事では失禁しそうになった。「本当さ~」といったのだ。
だが、店員としては冗談のつもりだったのだろう。あるいは、あまりに同じ質問ばかりぶつけられるので、うんざりしてウソ返事をしたのかもしれない。
ところが、それからしばらくして、ソーキそばのトッピングとしてカンガルー肉に関する記事が地元紙に載った。新聞も取り上げるほどの、一種の社会問題になっていたのである。
その記事は、沖縄地区税関の調べによると、沖縄にカンガルー肉が輸入された事実はないという内容だった。〇✕そばのカンガルー疑惑は公的機関によって否定されたのである。
ソーキにも2種類あって選べる
そもそも、カンガルー疑惑の根拠になったのは、骨が柔らかいことである。たしかに〇✕そばのソーキの骨はやたらと柔らかかった。調べてみると、ソーキも部位によって固かったり柔らかかったりするらしい。
ろっ骨は、背骨から枝のように出てわき腹の曲線を構成し、胸の正中線に至るが、ろっ骨の背骨に近い方の骨は太くて固く、先端に行くほど細く柔らかくなるのだそうである。
つまり、カンガルーと疑われたソーキは、ろっ骨の先端に近い部分の軟骨だったのだ。
この騒ぎ以降だと思われるが、そば屋も、ぶっとい骨付きを本ソーキ、細くて柔らかい骨を軟骨ソーキなどと、分けて表示するところが増えてきた。一種の自衛策だろう。
筆者は2種類あったら本ソーキを選ぶ。今さら、軟骨ソーキをカンガルーだとは思わないが、本ソーキの方が骨離れがよく、潔い感じがするからである。
軟骨ソーキは、肉なのか骨なのかわからないところが中途半端でイヤだ。骨は食べられないけど、軟骨は食べられるではないか、という人もいるが、それはそば屋に洗脳されているからである。本ソーキより軟骨ソーキの方がコストが安いので、そば屋はそっちを売りたいのだ。
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吉田 直人 よしだ なおひと
沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。
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