2024/02/01

【成功する沖縄移住】外国からの移住・転職で実感した「天国」

日本人として生まれ、結婚を機にイギリスへ渡って12年働き、そして沖縄移住を果たした女性がいる。その実例を元に、今回は外国からの沖縄移住という視点で、そのメリットを考えてみる。

就職氷河期に始まった旅のような人生

岡山県出身のAさんが大学を卒業したのはバブル崩壊から数年後。運悪く、いわゆる就職氷河期に当たってしまった。
ただ、当時はパソコンひとり一台が一般的になりつつあったころで、さらに、企業が社内LANを整備し始めた時期でもあったため、ソフトウェア業界はスキルのない新卒者もどんどん採用し、プログラマとして育てていた。
そこでAさんはソフトウェア開発会社に入社。社会人としてのスタートを切った。
3年半ほどが経ち、違う仕事をしたいと思い始めた。そしてアメリカに渡り、大学で日本語教師のアシスタントとして1年ほど働いた。
帰国後、今度は自動車メーカーで働く。
2年勤務したあと、人生の大きな転機が訪れる。イギリス人男性と知り合って結婚。イギリスへ移住することになったのだ。
イギリス暮らしは12年続いた。その間の9年間は日系のSIer(システムインテグレーター)で働き、プロジェクトマネージャーも務めた。

 

イギリスにいながらリモートで職探し

帰国前、まだイギリスにいるころに、次は日本でなくても、ほかの国でもいい、とりあえず行けるところを回ってみようというわけで、ギリシャに行ってみた。
いいところだったが、ビザの関係もあって住むのは無理なことがわかった。
そこで、帰国の前年のゴールデンウィーク明けに休暇で沖縄を訪れた。それがすごくよかったのだという。人はそう多くなく、しかも梅雨入り前。湿気は少なく海はきれいだった。沖縄に来たくなっちゃったのである。
実はイギリスで働いているころから同僚と「引退したら沖縄に住みたいね」と話していた。とはいえ、沖縄は20年ほど前に一度来たことがあるだけで、次に来たときも「沖縄という選択肢もある」という程度の発想だった。
そもそもイギリスに住み始めたころは、日本には戻らないつもりだった。
日本とイギリスでは働き方や人間関係の作り方がまったく違う。日本では長時間労働があたり前。上司が帰らなければ帰れないといった妙な慣習もある。日本に帰ってもやっていけるかどうか疑問だったのだ。
それが帰ることになった。だが、イギリスの働き方に慣れてしまった以上、東京に住むのは無理だと思っていた。そこでイギリス人の夫が暮らせるかどうかの確認も含め、沖縄に来てみたのである。
来てみたら本気になった。沖縄に住むとしたらどんな可能性が広がるのかを考えた。まずは仕事だ。
当時はまだイギリスにいたが、後に入社することになる会社を含めて、沖縄に強い人材紹介会社から5社を紹介され、オンラインで面談をした。
そしてリアル面接のために沖縄へやって来る。2社の面接を受けて内定をもらい、そのうちの1社への入社が決まった。
そしていったんイギリスに戻り、改めて沖縄に引っ越してきた。

Aさんが移住を検討しつつも結局あきらめたギリシャ・ミコノス島。やはり沖縄と共通する雰囲気が感じられる。

 

会社は残業なし、休日出勤なし

イギリスを引き払って沖縄に来て、1週間ほどはビジネスホテルに宿泊し、その間に家を自分で探した。
事前に不動産屋数軒に連絡を取ってあったが、不安なこともあった。賃貸物件の契約にあたって沖縄在住の保証人が必要という話である。
その昔、本土から沖縄に流れてきた不心得者が家賃を踏み倒して逃げるケースが跡を絶たなかった。
そこで貸し主は自衛のためにウチナーンチュの保証人を求めることが実際多かった。
逃げられたら地元にいる保証人に請求すればよかったのだ。しかし、近年は保証会社が保証人の代わりになってくれることなどもあって、こんな慣習は廃れつつある。
Aさんは、沖縄に来た翌日から物件の内覧を始め、保証人の問題もクリアし、手続きが完了して鍵を受け取ったのが来てから1週間後だった。かなりの早業である。
入社したのはキャリアが生かせるIT系企業。仕事はMSP(マネージドサービスプロバイダ)としてクライアントのITシステムを運用・監視するサービスを統括することだ。部長職である。
本社は那覇市内にあるが、沖縄本島内各地にセンターがあり、上田さんはうるま市内のセンターに勤務している。
自宅も同じうるま市内にあって海に近く、歩いてビーチに行けるロケーションだ。
通勤は車だが渋滞に巻き込まれることもなく、あっという間に会社に着いてしまう。
本社へ行くこともよくあるが、車窓から海が見えるという。勤務時間は朝の9時半から夕方の5時半。労働時間は働き方の改革を目指して1日7時間、月147時間と決まっているという。残業はほとんどない
通勤は楽、家から徒歩圏内に海があり、残業も休日出勤もなしという、非常に恵まれた環境で、ウチナーンチュから見てもうらやましいくらいである。
ただし、給料はイギリスで働いていたときより減ったという。
しかし、これには説明が必要だ。というのもイギリスで働く日本人の収入は現地の人よりかなり高いのが一般的らしい。
そのレベルから見ての減収であって、日本を基準に考えれば十分満足のいく内容であった。
イギリスに住んでいたころに比べれば物はあまり買わなくなったし、給料の額にはそこまでこだわりはないと笑う。
転職した当初は仕事に慣れるのが大変だったそうだが、今は趣味を探している。それも沖縄らしい趣味だ。とりあえず休日はドライブしていたそうだ。
また、3連休があると離島に行くこともある。直近のクリスマスは石垣島や竹富島、さらに年末には久高島に行った。沖縄の有人島全部を回るのが夢だという。
給料は下がったかもしれないが、残業に追われるわけでも休日出勤を強要されるわけでもなく、人生を楽しむだけの時間的精神的なゆとりを手にしているようだ。
デメリットよりもメリットのほうが大きい成功例といっていいだろう。

Aさんの職場や自宅があるうるま市にはきれいなビーチが多い。写真は浜比嘉島の隠れ家的なビーチ(©OCVB)

 

電車がないので飲めない

一方、Aさんはお酒も好きだ。イギリスではいつもワインを飲んでいたし、沖縄ではオリオンビールが気に入った。
日本酒もけっこういけるというから、あとは泡盛を制すれば飲む楽しみはいっそう広がるだろう。
ところが困ったことがある。モノレール以外鉄道がないので、どこへ行くにも車に頼らざるを得ないことだ。そのため、那覇の本社に行ったときに飲むのが至難のワザなのである。
那覇市からうるま市までは35〜40㎞ほどあり、この距離を運転代行で帰ったら、へたすると万札が飛ぶ。那覇で泊まったほうがいいくらいだ。
なので「ぜひ電車が通ってほしい」と本人はいう。ただし、うるま市まで電車が通るのか、通るとしても何年、いや何十年かかるかはまったくわからないのが現実だ。
また、外国人が多いわりに英語があまり通じないことが意外だった。ご主人がイギリス人なので手続きで役所などを訪れても窓口で英語が通じないのである。
こういう話を聞かされると、ウチナーンチュには耳が痛い。東アジアの中心などと国際化を自ら唱えているのだから、役所の窓口では英語くらい通じるべきだろう。

 

総体的に見て、沖縄は天国かも…

前述のようにイギリスではかなりの給料をもらっていたようだが、その分服にお金をかけたり週末は買い物に明け暮れたりと、物欲も強かった
しかし、沖縄に来てそれが変わった。物はあまり必要ないし、特にうるま市にはブランドショップがあるわけでもないから買い物に出ても日用品以外はほとんど見ない。

海に行ったり、車でドライブしながら地場野菜を買って家で食べたりする。そんなことのほうが楽しい。「生きていくのに最低限の物があればいい」と沖縄に来てからは思っている。
移住してくると収入が減る可能性はたしかにあるし、価値基準を金においている人には厳しいかもしれない。
また「こうじゃなくてはいけない」と自分の価値観にこだわる人も、沖縄のユルさの中では生きづらいだろう。
お金では買えないことを求める人や、沖縄の魅力に合わせて自分の人生を作っていける人、さらにハプニングを楽しめるくらいの余裕のある人には沖縄は合うはずとAさんは指摘する。
ハプニングといえばイギリスから引っ越してくるときに荷物が届かないという出来事があった。
そのせいで2ヵ月くらい家具なしの生活を強いられたそうだ。それでもイギリスに引っ越したときよりはハプニングが少ないという。
また、時間に遅れる、いわゆるウチナータイムもまったく気にならない。というのもイギリス人はウチナーンチュよりもはるかに時間にルーズだからだ。ウチナータイムなんてかわいいものといい切る。
さらに、人によっては沖縄の食べ物が合わないケースもあるが、Aさんはまったく問題がないという。
よくいわれることで「イギリス料理はまずい」というのがある。これはイギリス人自身も認めているほどだ。
上田さんもそれは身に染みていたようで、イギリスに比べたら沖縄ははるかにいいという。
彼女にとって沖縄は今のところ天国らしい。日本の視点だけでなく外国の視点から見ると、また違う姿が見えてくるのだ。

ドライブ好きなAさん。住んでいるうるま市には沖縄の代表的なドライブスポットの海中道路もある。

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吉田 直人 よしだ なおひと

沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。

著作の紹介

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