「汁物」で乗りきろう、沖縄の寒~い冬②
前回は、沖縄の汁物が日本の鍋料理と同等、もしくはそれ以上にスグレモノであることをお伝えした。それはいわば概論だったので、今回からは各論に移ってみる。まずは魚汁とヤギ汁だ。
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魚のうまさと栄養を骨の髄までしゃぶりつくす
「沖縄の高級魚とはどんな魚か?」
ウチナーンチュにこのように質問すると、「アカジンミーバイやさ」(スジアラだ)、「あらん、マクブてぇ」(ちがう、シロクラベラでしょ)「ぬーあびとーが、アカマチどー」(なにをほざきやがるか、ハマダイだろが)というふうに、いろいろな答えが返ってくる。
具体的な魚の種類が上がるのはいいが、もっと普遍的な定義がしたい。すると「刺身でおいしい魚」という答えも出てくる。これは当然だ。たしかにアカジンミーバイやマクブ、アカマチは刺身でうまい。
沖縄の魚は淡泊で、刺身はあまりうまくないといわれる中で、これらは刺身として自信を持っておすすめできる、横綱クラスである。
しかし、夏はいうまでもなく冬場も温暖な沖縄で、一般大衆も刺身が食べられるようになったのは、比較的最近のこと。要は冷蔵庫が普及し始めた4、50年前からである。
「グルクンはイマイチだけど、アカジンミーバイはやっぱりおいしいね」などと、小学生がほざくようになったのは、そう昔のことではない。つまり、戦前までは刺身でうまいかどうかは、魚の高級度をはかる物差しにはならなかったのだ。
では、刺身の次にシンプルな料理法である塩焼きはどうか。ところが、沖縄には塩焼きの文化がない。不思議なことだが、ウチナーンチュの頭の中から、魚に塩ぶっかけて直火で焼くという発想がスポーンと抜けているのだ。「グルクンは塩焼きがいいね」などとニッコリ笑ったら、変な人と思われかねないので、ご注意を。
ならば、天ぷらはどうだろう。それは論外。天ぷらはおやつなのだ。
というわけで、答えは魚汁となる。沖縄の高級魚とは「汁にしてうまい魚」をいうのだ。だから、汁でうまい魚は刺身でもうまい、それは煮付けでも唐揚げでも天ぷらでもうまい、という順番になるわけだ。
だから魚汁はうまい。しかし、本当に美味なのは魚の身よりも汁の方である。骨からもいいダシがにじみ出るし、EPAやDHAもバリバリに出まくっている。その豊かな栄養は、ほとんど薬といってもいいほどなのだ。
だから昔のウチナーンチュは、骨を捨てる刺身や焼き物よりも魚汁にプライオリティを与えたのである。通にいわせると、「汁にすると、それぞれの魚本来のおいしさが味わえる」のだそうだ。
白身魚が生み出す上品な味わい、ほんのり甘くてやさしい島みその香り、魚のうまみをたっぷり含んだ汁の豊かな風味。これほど合理的な魚料理はない。魚汁は魚料理の最高峰なのである。
大ぶりの切り身がどかっと入った魚汁は、ダシがたっぷり出ていて白みそのやさしい風味とよく合う。
自分でも作れる魚汁
おいしくて栄養も満点だが、それだけに料理屋などで魚汁を頼むと、ちょっと高い。ミーバイ(ハタ)、タマン(フエフキダイ)などの高級魚の顔面がドンと入ったクラスになるとなおさらだ。
だから、たまには自分で作ってみたい。作り方はとても簡単だ。ぶつ切りの魚を買ってくるか釣ってくるかしたら、水でよく洗い、お湯をかける。次に鍋にダシ汁と魚を入れ、アクを取りながらしばらく煮る。魚に火が通ったらみそを溶いて出来上がり。
ネギを散らすとさらにおいしい。島豆腐も入れると、これが魚のダシを吸って、えもいわれぬうまさとなる。
だが、もっと手をかけて魚汁を極めたい。次元の違う魚汁を作ってみよう。
まず、やんばる(本島北部の田舎)の川に行ってタナガー(テナガエビ)を捕ったら、海に出てミーバイとタマンを釣り、ついでにビーチでハマグリを掘る。
伊江島で島らっきょう、津堅島で島ニンジンを仕入れ、庭で島とうがらしもつみ取っておこう。
素材がそろったら鍋に水と泡盛を入れて火にかけ、材料を入れ、トマトピューレもぶちこむ。しばらく煮込んで出来上がるのは、ウチナー風ブイヤベースである。
おっと、ブイヤベースの命ともいうべきサフランを忘れていた。そうだ、同じ黄色だから、ウコンの粉を入れよう。これで完成だ。
おしっこで知るヤギの実力と伝統文化の香り
ウチナーンチュはヤギを食べる。日本人は食べないので眉をひそめる人もいるが、単なる文化の違いだ。
野蛮人といわれても、大きなお世話である。ヤギ食も沖縄における伝統文化のひとつなのだ。日本人だってヒツジを食べるではないか。ヤギもヒツジも料理してしまえば同じである。
ちなみに地元ではヤギをヒージャーという。地域によってはピージャーともいう。ラム、マトン、ピージャー、全部同じようなものだ。差別してはいけない。
草野球の試合でヤギ1頭を賭けることがある。家の上棟式でもヤギ料理が振る舞われる。ウチナーンチュにとっては身近な食材で、料理法の代表は汁である。
ヤギ汁は、ぶつ切りの肉、骨、内臓、血のかたまりを大鍋にぶちこんでひたすら煮る。一般にヤギ汁は屋外で作ることが多い。なのでアウトドア料理だと勘違いしている人も多いようだが、実はヤギの臭いが壁や床や天井や衣服に染みつくので、家の中で煮てはいけないという不文律があるらしい。
煮るときにはほとんど味つけをしない。食べる人が好みの味になるように塩を入れる。ほかに入れるのは臭い消しのフーチバー(よもぎ)としょうがぐらい。それでもクサイが、慣れるとハマってしまうのがこの料理である。
ヤギの実力を思い知らされるのが食べた翌朝だ。おしっこがヤギ臭いのである。ということは汗も臭うはずである。加齢臭とヤギ臭が絶妙に混じり合ったオヤジの汗の臭い。これは琉球伝統文化の香りでもある。
ヤギ料理は専門店で食べることも多い。ヤギ一本で商売が立ちゆくわけで、それだけスキ者がいるということだ。
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吉田 直人 よしだ なおひと
沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。
著作の紹介
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