2024/05/31

【成功する沖縄移住】大宜味村出身「世界のカキ王」の大功績

カキが好きな人は世界に何千万いや何億人もいるかもしれない。海のミルクと呼ばれるほどに美味で栄養満点な貝。実はカキが今のように世界中で食べられるようになったのは大宜味村出身の宮城新昌という人が養殖法を開発してくれたおかげだ。今回は彼のお話で一席。

 

世のため人のためにといわれて海外へ雄飛

宮城新昌(みやぎしんしょう)は1884年(明治17年)、大宜味村根路銘で生まれた。
家は比較的裕福だったようで、母親は新昌に「うちは田んぼもあって食べるには困らないから世のため人のために働きなさい」と指導したという。
1905年に国頭農学校を卒業。翌年にはハワイ・オアフ島に渡ってサトウキビ作りなどに携わった後、アメリカ本土でカキ養殖を主事業とする水産会社に入社し、カキ養殖が有望な事業であることを知る。
当時アメリカではルーズベルト大統領が「漁業は栽培漁業に」という方針を打ち出しており、新昌もそれに触発されて海の農業ともいえる養殖事業に興味を持ったようだ。
さらに新昌は、当時ヨーロッパでただひとつのカキ輸出国だったオランダに渡り、研究に力を入れる。
1911年にはカナダに移り、バンクーバーでローヤル漁業会社(Royal Fish Company)を日本人仲間らとともに設立し、魚の卸売やカキ養殖を手がける。
1913には日本に帰国し、政府の援助も得てさらに研究に打ち込む。
そして苦節10年余り。1924年にカキの垂下式養殖法を開発し、宮城県石巻市で本格的に養殖事業を始めたのだった。

大宜味村根路銘にある新昌の実家は現在、琉球古民家一棟貸しの宿として提供されており、宿泊可能である。名称は「やんばるホテルズ-根路銘01号室」という。

 

画期的な新昌のカキ養殖法

カキというのはおいしく栄養豊富で、しかも安い。海の豆腐といってもよいほど優れた食材だ。
ただし、今から100年くらい前までは、そう簡単に一般庶民の口に入るようなシロモノではなかった。天然物は希少だし、養殖も難しかったからだ。
それまでのカキ養殖といえば稚貝を湾内にばらまくか、竹や木の棒に稚貝を付着させて干潟に立てるといった手法が一般的だった。
ばらまき法では貝の大半が潮に流されて行方不明になるし、竹棒方式では上下で生育具合にばらつきが出る。
新昌が開発した垂下式養殖法は、木で組んだイカダを波の静かな水面に浮かべ、そこから稚貝を付着させたロープなどを海中に垂らすというものだ。
現在も日本はもとより世界的にも広く採用されている養殖法である。モノがカキだけに文字通り画期的だったのである。

カキは、稚貝をロープに結びつけ、それを海中に垂らして成長させるのが垂下式養殖法だ。収穫時にはロープを引き上げるだけでよいので楽である。その意味でもカッキ的だ。

 

国民の健康と幸せのために広める

新昌が偉かったのは養殖法を開発したことだけではない。この技術で特許を取得したものの、特許料などを取らずに日本各地へと普及させていったのだ。
このころ、1929年にアメリカ・ニューヨークで起きた株価大暴落をきっかけに起きた世界恐慌のあおりを受け、日本も極度の不景気に見まわれる。
それにより、チマタには欠食児童があふれ、貧困にあえぐ家は娘を遊郭に売り飛ばすといった、いわゆる昭和恐慌に突入していった。
しかも、それをなんとかしようと国家は満州占領に乗り出し、戦時体制に突入していく。
そんな時代に新昌は国民に、栄養豊富なカキを気軽に食べて健康になってほしいと、垂下式養殖法を広めていったのだ。
国内だけではない。新昌の養殖法はやがて欧米をはじめとする世界中へ普及していった。
こうしたことから新昌は日本のカキ王、さらに世界のカキ王とも呼ばれるようになった。
ちなみに、料理記者歴60年「おいしゅうございます」で知られた岸朝子は新昌の娘である。

やんばる国立公園の一部にもなっている大宜味村の塩屋湾。新昌はここでもカキの養殖にチャレンジしたようだが、うまくいかなかったらしい。水温などの関係だろうか。

 

客観的に見て新昌の功績はノーベル賞級

1979年、石巻市荻浜漁港に新昌の功績を称える顕彰碑が建てられ、2010年には岸朝子のメッセージプレートも設置される。
翌2011年3月の東日本大震災による津波で破壊されるも、2013年に関係者の努力によって再建された。
ところで、現在でも世界の養殖ガキ生産の8割は新昌の垂下式養殖法がベースになっているという話もある。
日本はもとより世界各地でおいしいカキが食べられるのは新昌のおかげといっても過言ではないだろう。
顕彰碑もけっこうだが、彼の功績はノーベル賞に値すると筆者などは思う。同じやんばる出身者のひいき目だろうか。

ほとんど採れないのにカキと沖縄に深い縁があったなんて、ウチナーンチュでも知っている人は少ない。もちろん生ガキなんてまず食べないし。でも大宜味特産のシークヮーサーをちょこっとたらして頬ばったらうまいだろう。

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吉田 直人 よしだ なおひと

沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。

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