2022/07/13

沖縄最大級イベント「お盆」を120%楽しむための基礎知識

梅雨が明けて夏本番を迎えると、沖縄の一般大衆の間ではある言葉が飛び交う。「お盆はいつ?」というものだ。お盆は、県民にとっては正月と並ぶ重要なイベントである。というのも、生きている人だけでなく、ご先祖様にとってもきわめて大切な行事だからだ。沖縄暮らしとは切り離し不可のお盆について、要点をまとめてみよう。

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旧盆は旧暦の8月15日、ではない

 沖縄のお盆は旧暦、つまり旧盆である。「お盆はいちやたがや~?」といった会話が交わされるのも、新暦を基準にすると毎年日程が変わるので確認が必要だからなのだ。

 具体的にいうと、新暦のお盆が毎年8月15日で固定なのに対し、旧盆は変動する。ちなみに2022年の旧盆は8月12日であるが、年によっては9月にずれ込むこともある。

 

 ここで「ん?」と思われた方はかなり鋭い。旧暦は、通常新暦より遅れるはずなのに、この年の旧盆は新暦のお盆より早くなっているからだ。

 ちなみに2022年の旧正月を見てみると、新暦の2月1日となっている。ちょうど1か月遅れである。なのに、なぜ旧盆は新暦のお盆より早く来るのだろうか。

 答えは簡単だ。旧盆は旧暦の7月15日だからである。念のためにいうが、旧盆は旧暦の8月15日ではない。

 日本中見回しても旧暦のお盆は沖縄くらいだ(例外はあるかも)。他の地域は8月15日、もしくは一部7月15日をお盆としているところもある。

 

悲しみ嘆くお母さんが出した神のジューシー

 3日間あるお盆のうち、初日の7月13日をウンケー(お迎え)という。あの世から戻ってくるご先祖様をお迎えする日だ。仏壇をきれいにしたり、お茶、酒、花、果物、料理などを供えたりする。

 沖縄のお盆の特徴のひとつが、お迎えの日にウンケージューシーをお供えする点だ。ジューシーとは炊き込みごはんのこと。ウチナーンチュにとって、ウンケーといえばジューシーというほど切っても切れない関係にある。

 しかし、ウチナーンチュでも、なぜウンケーにはジューシーなのかという問いに答えられる人はあまりいない。そこで、ひとつの説としていわれている話を紹介しよう。

 

 昔々、夫婦と息子の3人で暮らす家族がいた。あるときお父さんが亡くなってしまい、後を追うように息子も病気で死んでしまった。

 お盆になり、父と息子があの世から戻って来るが、お母さんは悲嘆に暮れるあまり、お盆の準備ができていなかった。がっかりした父子があの世に戻る途中、神様とバッタリ会う。

「おまえたち、なんでこんなに早く帰るか」と聞かれた父子が事情を話すと、神様はお母さんの元を訪れ、「これからお盆用の料理を用意するのは大変だろう。簡単にできるジューシーを作って出しなさい」と命じる。

 

 いわれた通りにしたお母さん、無事夫と息子を迎えることができたという。それからウンケーにはジューシーを供えるのが一般的になったとされる。

 

 近年は「亡くなったお父さんが好きだったから」と、ウンケーピザを供える家もあるという。デリバリーのピザではあまりに手抜きっぽくてご先祖様に申し訳ないので、せめて手作りジューシーを供えたいと、個人的には思うのである。

 

中日にはソーミン汁をお供えする

 2日目のナカビ(またはナカヌヒー)には、それほど大きな行事はない。ただ、ご先祖様は一日中家にいてのんびりしているので、朝、昼、晩と食事を供える。

 ちなみに、ナカビのお昼はソーミン(そうめん)汁を供えるのが一般的。なぜそうめんなのかははっきりしないが、幸せが長く続くので縁起がよいという話もある。

 また、一般的にお中元を持って仏壇のある親戚の家をまわる日とされているので、それで忙しくなる人もいるだろう。

 

ウークイの必須アイテム①重箱料理

 3日目のウークイは、あの世へ帰るご先祖様をお送りする日で、お盆の最も大きなイベントといえる。この日、職場は丸一日、もしくは午後休みのところも多く、国道58号線も高速道路も、特に北部へ向かう車線が混雑する。

 

 ウークイの日に欠かせないものはいろいろあるが、そのひとつが重箱料理

 重箱料理はウサンミ(御三味)という。内容は、豚三枚肉の煮付け、かまぼこ、魚の天ぷら、揚げ豆腐、ゴボウや昆布、こんにゃくの煮付けなど。これにお餅の重箱がセットとなる

 作るのはやはり手間がかかるので、最近はスーパーやレストランなどに注文するケースも多く見られる。

 

ウークイの必須アイテム②お金

 お金というのはウチカビのこと。これはウチナーンチュならよくご存じの、あの世のお金だ。これを燃やしてご先祖様に持たせることで、あの世での生活費にしてもらうのである。

 ウチカビには硬貨の模様が打ちつけられている。だから打ち紙なのかもしれない。この模様は16世紀ごろから琉球で流通するようになった鳩目銭(はとめせん)がモデルになっているといわれるので、4~500年の伝統を持つことになる。

 

 ウチカビは、藁などで作られたペラペラの紙幣で、手ざわりはザラザラ。妙に黄色っぽい色で、昔のちり紙より、はるかに粗悪である。お金というにはあまりに安っぽいが、考えてみれば燃やすためのものだからそれでいいのだろう。

 

 ウークイの夜には、家々の門でウチカビを燃やしながらご先祖様の霊を送る光景がよく見られる。月明かりの中に点々と燃え上がる炎は、けっこう幻想的だ。精霊流しのような風情もある。だが、こっちはお金をあの世に持っていってもらうためにやっているわけで、考え方は世俗的だ。

 ウチカビはたくさん燃やせば燃やすほどあの世のご先祖様は金持ちになるので、為替レートが円高カビ安になってくれるといい。

 

銭の文様が型押しされたウチカビはあの世のお金。たくさん燃やせば故人はあの世でお金持ちになれるという。

 

笑いに包まれる八重山の「アンガマ」

 石垣島などの八重山地方でお盆に行われる「アンガマ」は、本島にない大変ユニークな行事で、エイサー同様、一種の伝統芸能といっていい。

 基本は、お面をつけたウシュマイというおじぃとンミというおばぁの二人組が、ファーマーと呼ばれる子孫を引き連れて練り歩く。民家に上がると、先祖供養のために仏壇にお線香をあげたり、踊りを披露したりする。

 

 アンガマのハイライトは珍問答だ。彼らはあの世からの使者という設定で、生きている人からの質問に裏声で答える。もちろんまじめな内容ではなく、とんちを効かせたもので、たとえば次のようなやり取りをする。

 

 質問者「あの世に行けば神様の元で幸せに暮らせるのですか」。ウシュマイ「あの世にいるのは貧乏神と疫病神と死神じゃ」。質問者「マジっすか」。ンミ「だから来ない方がいいよ」

 質問者「おふたりはあの世へはどうやって帰るのですか」。ウシュマイ「車運転して帰る」。質問者「さっき泡盛飲んでましたね」。ンミ「代行呼ぶし」

 

科学的根拠があって海には入らない

 ウチナーンチュなら「お盆に海に入ってはいけない」といわれた経験のある人は多いだろう。沖縄ではお盆に戻ってくるご先祖様は行き帰りに海を通るとされており、そんなときに海にいれば、っしょにあの世へ連れて行かれてしまうからだという。

 親やおじぃおばぁだけでなく、学校の先生ですら真顔でそう諭す。実は、背景には科学的根拠も多少あるらしい。

 

 旧盆のころは大潮で、満潮時と干潮時の潮位の差が大きく、海流が早くなって、いわゆる離岸流が発生する。これは岸から沖に向かう非常に速い潮流で、それに逆らって人間が必死に泳いでも岸に戻るのは無理といわれる。

 さらに旧盆の時期は台風シーズンでもあり、台風本体は遠くにあっても、うねりが届いたりすると海は危険になる。

 旧盆には海に入らないというのは単なる迷信ではないので、科学的な知識として押さえておきたいものだ。

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吉田 直人 よしだ なおひと

沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。

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