新聞はここから見るというウチナーンチュも少なくない 一般人でも気軽に出す「死亡広告」
死亡広告というものをご存じだろうか。政治家、経済人などの大物が亡くなったときに、告別式などの情報を提供する新聞広告の一種である。
しかし沖縄では、一般の人でも(こういっては語弊があるかもしれないが)比較的気軽に死亡広告を出す。ちなみに地元では「だび広告」といったりもする。
このところのコロナ禍もあって、葬式の規模が縮小気味で、死亡広告を出さないケースもあるようだが、訃報を届けるには非常に効果的な手段であり、昔から広く活用されている。沖縄特有(かもしれない)の死亡広告をめぐる話題について書いてみたい。
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仏教徒を火葬に付すことを「だび」という
そもそも「だび」とは漢字で「荼毘」と書く。これはインドなどで使われるパーリ語のjhāpeta(燃やす)から来た仏教用語で、遺体を火葬して弔うことを意味する。そのため、本来は仏教徒を火葬する際にのみ使われ、他の宗教を持つ人や無宗教者については、単に火葬というのが正しい。
「だび」に広告という単語がくっつくことに違和感を覚える人もいるかもしれない。神聖な仏教用語と世俗的な経済用語が合体しているせいだろう。だび広告を直訳すれば「火葬広告」なので、なんとなく変な感じはする。
そんなことも影響しているのかもしれないが、最近では「おくやみ広告」と称することもあるようだ。
たくさんの人に送ってもらうのが普通
筆者の知る限りでは、一般人も死亡広告を出すのは沖縄くらいのものだ。子どもが亡くなった際に出すこともある。しかもスペースはやたらでかい。ナイチャーが初めて見たら、たぶん驚くだろう。
なぜ、沖縄だけ一般人も死亡広告を出すのかというと、葬儀の規模が大きい、つまり多数の人が参列するという特性から来ているように思われる。
規模が大きいといえば、沖縄の結婚式にもいえる。出席者が300人400人というのは普通で、新郎新婦の親の同僚などといった、主役と面識のない人が出席することもよくある。
同様に、葬式もたくさんの人が参列するので、広く知らせる必要がある。それには新聞に広告を出すのが手っ取り早いというわけだ。
一方、訃報を受け取る側は、出勤前に新聞を読む時間がなくても、死亡広告にだけは目を通しておくのはビジネスマナーのひとつである。告別式の時間と場所を頭に入れておき、職場に常備している黒ネクタイを締めて会場に向かうのだ。
香典が増えるので元は十分取れる
死亡広告はもちろん有料だ。料金は大きさにもよるが、7万円から25万円くらい。これを沖縄の2大新聞、沖縄タイムスと琉球新報の両紙に出すと15万円から50万円と、けっこうな金額になる。
ただ、筆者が親の死亡広告を出した経験からすると、1紙では定価だが、両紙なら値引きがある。なぜだかはよくわからないが、それでも10万円以上の負担になるから、財布には大きく響く。しかし、広く告知することによって多くの参列者が集まり、香典も増えるので元は取れることになる。
この点も結婚式と共通する面がある。結婚式でも多くの人を招待することによって挙式費用を超える祝儀を稼いて黒字にするというのは、ウチナーンチュがよくやる手法だ。
死亡広告も沖縄の生活様式にフィットした合理的なシステムといえる。
どこで情報を入手して電話してくるのだろう
人間関係の濃密な社会ではとても役に立つアイテムではあるものの、人が死ぬと、どこから情報を仕入れたのか(おそらく葬儀社あたりだと思うが)、身内の死で家族が悲しみに暮れているところへ、「死亡広告出しませんか」と営業の電話がかかってきて不愉快、との声も聞かれる。
読み込めば個人情報の宝庫だとわかる
この死亡広告、個人情報の宝庫でもある。たとえば、「次男 金城〇〇儀(17歳) ▽月▽日不慮の事故のため急逝いたしました うんぬん」とあり、続いて「喪主 父 金城◎◎ 母○○○○ 祖母☆☆☆☆ 兄△△△△ 姉◇◇◇◇ 義兄×××× 姉□□□□ 叔父◆◆◆◆ 湧川郷友会会長¥¥¥¥」などと記載されていたとしよう。
これは次のように読み解くことができる。「あ、おとといシュノーケリング中に溺れて死んだって、新聞に載っていたあの高校生か、かわいそうに。父親も母親も、オバァまで健在か、きついなぁ。数え17ってことは、たぶんまだ16。初体験とかまだだろうな、それだったらもっとかわいそうだ。上のお姉ちゃんは結婚しているんだ。お父さんは、そうかおれと同じ今帰仁の出身か」
別の例で、「父 桜坂〇〇儀(96歳) △月△日天寿を全うし永眠いたしました うんぬん」、続いて「喪主長男 次男 三男 長女 次女 三女 孫 孫 孫 曾孫 曾孫 曾孫・・・」などと並んでいたら、「ああ、このオジィは子どもや孫、ひ孫にも囲まれて、安らかに天国に旅立ったんだな、よかった」ということになる。
新聞は死亡広告から読むウチナーンチュも多い
死亡広告と必ずセットになっているのが、葬儀社、仏壇屋、墓工事業者など関連業者の広告だ。それぞれ、「沖縄の心でお見送り」とか、「祖先と家族をつなぐ幸せの絆」とか、「売墓 土地、駐車場、水道付 50万円!」などとアピール。大学入学共通テストの問題と回答の下に並ぶ予備校の広告のような、かすかな違和感も覚えないではないが、読者にとって有益な情報ではあろう。
県民生活に欠かせない死亡広告だが、新聞はテレビ欄と死亡広告しか見ないとか、死亡広告をメール配信してくれれば新聞代が浮くとか、1面も社会面もいらないから死亡広告だけの新聞を発行しろとかいうウチナーンチュもたくさんいる。気持ちはわからないでもないが、どこか本末転倒のような気がする。
時代の曲がり角で死亡広告も変わってきそう
その死亡広告も今、曲がり角を迎えているように見受けられる。コロナ禍は別にしても、時代の流れとして葬式の規模縮小化が進んでいるようだ。
一方で若者を中心とした活字離れや、インターネットの普及もあって、新聞の発行部数は減る流れにある。
葬式を小規模にするなら広く告知する必要性が減り、新聞を購読する人が少なくなれば、当然のように死亡広告の意義も見直されることになるだろう。
新聞社が前日にスマホ配信もしてくれる
こうした時代の流れを受けてか、近年は告別式情報をスマホに配信するサービスも登場している。
地元新聞が提供するサービスでは、新聞掲載の情報が前日に配信されるので、当日になってあわてることなく準備できる。さらに弔電や花、香典の代行サービスも用意されているので、この点でも利便性が高いといえる。
ただ、特に高齢者など、スマホを持っていない人にとっては、こうした配信サービスで情報を得るのは難しいだろう。そんな人たちへの配慮は社会的にも必要だ。そう考えると、紙媒体である新聞の死亡広告がすぐになくなるとは考えにくい。当面はスマホ配信と新聞の両方が使われるだろう。
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吉田 直人 よしだ なおひと
沖縄県今帰仁村生まれ。19歳まで沖縄で過ごし、20代は横浜に住む。大学卒業後は都内の出版社に勤務し、30代でフリーランスとなって沖縄に戻る。その後はライター兼編集者として活動。沖縄移住に関する本など多数の著作あり。
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